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◆画像:一般試写会配布ポストカード
裏面に感想を書いて大切な人に送ろうというキャンペーンのもの。
映画『カーズ』はラセッター監督の物語、
自分はそう感じました。
物語はハイウェイの開通で町の活気が失われつつあるある小さな田舎町味エータースプリングスに迷い込んだレースカー、ライトニング・マックィーンの成長譚。
人間が一切登場しない世界観ですが舞台になるルート66号と言えば、イリノイ州シカゴとカリフォルニア州サンタモニカ(ロサンゼルス郊外)を結ぶ実在の国道です。年配の人ならば60年代のTV番組『ルート66』やヒットした同名主題歌が浮かぶことでしょう。
監督、ジョン・ラセッターの出身地はカルフォルニア州のハリウッド。故郷に近い風土を描いていることや、作中で語られる黄金時代が50年代を中心としていて明らかに監督の故郷と年代を反映させていることが伺えます。
思い起こせば続編を除く『トイストーリー』『バグズライフ』以来のやっと3つ目の世界観、作家としての方向性がはっきりしてきた印象を受けます。”玩具”、”昆虫”に続く
”車”と言うモチーフの選び方は、かつてCGの弱点だった有機的な物を避けて硬質感を魅力にできる上手な選択だと思っていたのですが改めて見返すと幼児の好む王道のモチーフが並ぶことに気づかされます。いい意味で幼児性が抜けていないことが嬉しい。(他の作品は氏の作品ではないので嗜好がズレるのも面白い部分です。)
子供の頃のキャスパーのぬいぐるみを今でも大切に持っているラセッター監督はスタッフ曰くアンディのように変わった人だといわれています。(
「トイストーリー」10周年版DVDより)普通の子供はシドのように、少なからず残酷な遊びをするものだと言う意見に自分も賛同します。そう思うと『トイストーリー』は明らかに監督ジョン・ラセッターの子供時代の世界観が反映されています。
続く『バグズライフ』には手塚治虫のような昆虫少年の影をあまり感じないのですが、自然への探究心とコミュニティとの係わり合いをテーマにする感覚は監督の個性を感じます。それこそがラセッター節だったのだと『カーズ』を見てから改めて感じさせられました。『トイストーリー』のバディ・ムービーとはうって変わって、集団との係わり合いや才能を持った仲間達が増えるシチュエーションが描かれ、ピクサースタジオの成長期を反映させているように見えます。
そして『カーズ』。
スピード勝負のレーサー世界はそのままCGアニメーション、ひいてはアニメーション映画の業界を思わせます。この10年で技術開発のスピード勝負の世界に身を置き、新しい分野ゆえに誰もが新人だった時代、開拓者としてトップを走り続けることを余儀なくされたピクサー。そのプレッシャーは想像に難しくありません。
創作物の多くは作者の一部を投影して作られるものですが、『トイストーリー2』を一区切りにラセッターはそれぞれの他の監督に道をあけ、それぞれの監督を投影した物語を語らせるプロデュースに回りました。
そして隆盛期を迎えたCGアニメーションはハンドドローイング・アニメーションを駆逐するまでになりました。半世紀を越えていた最老舗のアニメーションスタジオだったディズニーは2D(手描き)アニメーションの中止を促しました。
20世紀フォックスはじめ多くのアメリカの映画会社はこぞって3DCGアニメーションを製作し、2Dアニメは絶滅しました。
自分を育ててくれたアニメーションの世界を”たまたま”だったにしろ”望まなかった”にせよ、息の根を止める引き金引いてしまったのは誰あろう、ピクサーでありラセッター自身だった訳です。
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